水田土壌の生物的鉄酸化機構の解明に向けた
新奇微好気性鉄酸化菌に関する研究

渡邉 健史
(名古屋大学大学院 生命農学研究科 生物機構・機能科学専攻 助教)

2014年3月31日月曜日

研究まとめ

前回の投稿からずいぶんとご無沙汰しております。
早いもので気がついたら3月も終わり、明日からは新年度です。

3月末日のギリギリとなってしまいましたが、
財団より助成していただいた「水田土壌の鉄酸化菌」について、
この1年間で得られた成果を報告したいと思います。

本研究では、水田土壌の鉄酸化菌の生理・生態の解明を目標に、その第一歩として、鉄酸化菌を分離すること、また、水田土壌での菌の生態的な解明を目指しました。

まずは目的の鉄酸化菌の集積、分離について。
私がターゲットとしたのは、微好気性鉄酸化菌と呼ばれる菌です。
結論を言うと、鉄酸化菌は集積したのですが、一緒に増殖したコンタミ菌(目的でない菌)の方がより速く増殖し、また鉄酸化菌より優占するため、何度植え継ぎを繰り返しても、純粋になりません。
いろいろな工夫を凝らしてみましたが全くダメで、むしろ目的の鉄酸化菌が増殖しなくなってしまう、という最悪の事態も一時起こりました。(このときはかなり焦りました。。。)
その後さらに検討することで、安定して菌を植え継ぐことができるまでに至りましたが、今後は、どうやって純粋にするか、が大きな課題です。
(つい先日試したアイディアによりついに分離に至ったかもしれないのですが、現段階で確証が得られておらず、今後の結果に期待したいと思います。)
環境から菌を分離することの難しさを思い知った一年です。

もう一つの目標である、菌の生態の解明については、少しは進展したと思っております。
昨年8月にも報告したように、日本土壌肥料学会誌の英文誌のSoil Science and Plant Nutritionに、還元状態にある土壌を微好気的に試験管内で培養することで、鉄酸化菌と推測される微生物がコロニーを形成すること、を発表しました。
また、このコロニーは、還元的な土壌と酸化的な土壌の境界に集中して形成されることを示しました。

このことは、水田土壌に微好気性の鉄酸化菌が、土壌の表層や水稲根の周辺など、酸化還元境界層で働いているのではないか、ということを示唆させる結果と思っております。
(湛水された水田土壌では微生物によって酸素が速やかに消費されるため、嫌気的、還元的な状態となりますが、土壌の表層や水稲根の周辺では、田面水や根から酸素がゆっくり供給されるため、酸化的な環境になり、酸化還元境界層が形成されます。)

このように当初の計画通りには進まないことが多々ありましたが、今後は、菌の純化をまずは目指し、実際の水田土壌での働きや寄与についても研究を進めていきたいと思ってます。
最終的には、水田土壌の鉄循環と鉄酸化菌の関係の解明、さらに鉄の動態と他の物質の動態の関係の解明にも繋がることを期待しています。

国際科学技術財団より助成していただきましたこと、感謝申し上げます。





2013年12月4日水曜日

師走

ずいぶんと久しぶりの投稿となってしまいました。。。

9月の日本土壌肥料学会名古屋大会を無事に終え、また、学会後の若手の会の引率役をこなし、その後、放心状態がしばらく続いておりました。

10月には科研費の申請、そしてインドネシアで開催された東・東南アジア土壌科学会連合第11回国際会議への出席など、ここでご紹介すればよい話題もいくつかあったのですが、あれよあれよという間に時が過ぎてしまい、今日に至ってしまいました。

11月に入ってようやく実験に集中して取組めるようになり、モチベーションも回復してきたところです。
気がついたら今年もあと1ヶ月。研究の方は当初の予定よりだいぶ遅れていますが、がんばって行きたいと思います。

ところで、
今回の助成とは関係ありませんが、この度、2つの論文が受理されましたので、ご紹介したいと思います。

"Analysis of [FeFe]-hydrogenase genes for the elucidation of a hydrogen-producing bacterial community in paddy field soil"
Ryuko Baba, Makoto Kimura, Susumu Asakawa, Takeshi Watanabe
FEMS Microbiology Letters
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1574-6968.12335/abstract

この論文は、ヒドロゲナーゼ酵素遺伝子をターゲットにして水田土壌の水素生成菌群集の多様性の解析を試みた論文で、大学院生と一緒に行った実験です。
水が張ってある水田土壌のような嫌気的な環境では、有機物が微生物によって分解される過程で、中間代謝産物として水素が生成されます。その生成と消費反応は有機物分解を律速する重要な反応であり、水素生成者と消費者の関係を明らかにすることは水田土壌の有機物分解を理解する上で必要不可欠です。この論文は、水田土壌の水素生成菌群集について初めて解析を試みた実験であり、今後、水素生成活性と群集の動態、水田土壌中の有機物分解との関係などの解析に繋げていければと思っています。

"A reduced fraction of plant N derived from atmospheric N (%Ndfa) and reduced rhizobial nifH gene numbers indicate a lower capacity for nitrogen fixation in nodules of white clover exposed to long-term CO2 enrichment"
Takeshi Watanabe, Saman Bowatte, Paul C.D. Newton
Biogeosciences, accepted
(現在は、Biogeosciencesに掲載される前のBiogeosciences Discussions, 10, 9867-9896にて公開されています。)

2011年に3ヶ月ほどニュージーランドのAgResearch研究所に訪問する機会があったのですが、そこで行った実験をまとめた論文が受理されました。
AgResearch研究所では、羊の放牧草地を対象としたFACE実験が行われています。FACEとは、"Free Air CO2 Enrichment"、日本語では「開放系大気CO2増加」の略であり、人為的にある生態系のCO2濃度を上昇させて、植生や物質循環などに及ぼす影響を評価する試験です。AgResearchだけでなく、世界各地で行われており、日本ではつくばで水田を対象に試験されています。http://www.niaes.affrc.go.jp/outline/face/
マメ科植物の根には、根粒菌という大気中の窒素を固定する菌が共生し、植物、そしてその生態系に窒素を供給する重要な役割を担っています。この論文では、マメ科牧草の一種であるシロクローバーとその根に共生する根粒菌が、大気中のCO2濃度が上昇したときにどのような影響を受けるのかを解析した論文です。3ヶ月という短い期間で行った実験で、また普段とは異なる研究テーマで、無事、終わらせることができるかどうかかなり不安だったのですが、こうして論文にすることができ、ホッとしています。


今年は、国際科学技術財団の助成、やさしい科学技術セミナー、学会、奨励賞、論文受理など非常に充実した一年でした(後半失速しがちでしたが)。来年もさらに充実した一年になるよう、しっかり一歩ずつ進んでいきたいと思います(まだ12月に入ったばかりなのにまとめてしまい恐縮ですが)。


2013年9月5日木曜日

日本土壌肥料学会奨励賞

やさしい科学技術セミナーが終わって2週間、ホッと息をつく間もなく来週9/11から開催される日本土壌肥料学会2013年度名古屋大会の準備に追われております。

大会運営委員として、また自身の発表の準備もあり、本当にヘトヘトです。
なんとか乗り切りたいと思います。

さて、この日本土壌肥料学会に関して一つご報告がございます。

この度、第31回日本土壌肥料学会奨励賞をいただくことになりました。
研究タイトルは、
「分子生態学的手法による水田土壌のメタン生成古細菌の動態と多様性に関する研究」
です。
今回の助成の研究テーマ(鉄酸化菌)とは異なるのですが、水田土壌に生息し、メタンガスを生成する菌に関する研究で、卒論からずっと行っていた研究です。

実は4月の時点で受賞は決定していたのですが、ご報告するか迷っているうちにこの時期になってしまいました。
名古屋での開催年に、このような栄えある賞を受賞することができ、大変光栄です。
これまでに多くの方々にお世話になりましたこと、この場をお借りして御礼申し上げます。
文字通り、もっと研究をしなさいと奨励していただいたと思い、今後も励んでいきたいと思います。


最後に、ついでと言っては何ですが、名古屋大会についても再度宣伝させてください。
以前にも宣伝させていただきましたが、名古屋大会では一般市民向けの公開シンポジウムとして

「正しく知ろう、土壌と作物の放射性セシウム低減への取り組み」
日時:9 月 11 日(水) 18:00~20:00
場所:名古屋大学東山キャンパス内 ES 総合館1階 ES ホール

が開催されます。

また、日本学術会議主催、日本農学アカデミー・日本土壌肥料学会共催で

「復興農学 東日本大震災への土壌科学の貢献と課題」
日時:9 月 13日(金) 13:00~17:00
場所:名古屋大学東山キャンパス内 IB電子情報館2階 IB大講義室

も開催されます。
ESホールは200名、IB大講義室は300名入る大きな部屋です。
どちらも、参加費は無料、事前登録の必要もございませんので、興味がある方はお気軽に足を運んでください。

それでは、学会まであと少し、がんばって準備します。




2013年8月27日火曜日

やさしい科学技術セミナー終了

8/23 (金)に豊田市自然観察の森にてやさしい科学技術セミナーが開催され、無事終了しましたので報告したいと思います。

本セミナーは、日本土壌肥料学会中部支部と共同で行われました。
私自身は、講義も説明もしどろもどろで冷や汗かきっぱなしでしたが、参加者のみなさんはそれなり楽しんでいただけたようで(そう思いたいです)、ホッとしております。

午前中は、自然観察の森を散策し、植生と土壌、地形の関係や、森林と湿地の土壌の違いを実際に見て、触って、感じてもらいました。
>小倉さん、暑い中、2時間弱も歩くことをきちんと伝えておらず、すいませんでした。

午後は、3つのグループに分かれて、土壌動物の観察、土壌呼吸の実験、土壌緩衝能の実験を行いました。
土壌動物は、ツルグレン装置とハンドソーティングで土壌動物を補足し、観察。
土壌呼吸は、土壌生物の活動によって放出される二酸化炭素を、フェノールフタレイン指示薬の色の変化から検出。
土壌緩衝能は、異なる土壌に異なるpHの塩酸を加え、土壌pHの変化の仕方から、緩衝能の違いを比較。
という実験です。

私は主に土壌動物の観察を担当したのですが、後で聞くと、土壌緩衝能の実験ははっきりとした違いが得られず、なかなか理解しにくかったようです。
最初の講義もあまりうまく伝えられず、今後の改善点と反省しております。

土壌動物の観察は、今回、虫眼鏡、実体顕微鏡の他にも、財団予算でUSBデジタルマイクロスコープを購入して観察を試みましたが、意外にクリアな画像が撮れて、大変満足です。
参加者も、「へぇ〜」や「うゎ〜」、「きもい」など、いろんな声があがったり、画面と図鑑を見比べながら熱心に調べてくれたり、と、結構役に立ったみたいで、購入してよかったと思います。

実際に観察された土壌動物をいくつかご紹介します。






最初、財団にこういうものを買う予定です、と伝えたときには、
「ふ〜ん、それは何?面白いの?」
みたいな反応で、また、他の人からもそれほど好反応を得られず、正直、大変不安だったのですが、最終的には、小倉さんにも気に入っていただけたようで、
「これ、めっちゃいい。絶対買う。」
とまで言っていただきました。

お手軽にいろんなことで使える(遊べる)と思いますので、興味がある方はぜひお試しを(今回購入したものはこちらの中のBasicなものです)。

今回のセミナーの参加者の多くは、普段、土壌についてはあまり何も考えることがなかったと思いますが、参加者の土壌の不思議さに対する素直な反応がみれて、また土壌について少しでも知ってもらえてよかったと思います。
私にも刺激になりました。
初心に戻って、素直な気持ちでまた日々の研究を励みたいと思います。

今回の開催に関しまして、いろいろとご尽力いただきました小倉さん、中原さん、藤井さん、学会関係者、また参加してくださった方に改めて感謝申し上げます。

2013年8月7日水曜日

論文の掲載

論文掲載、本の宣伝です。
 
今回の助成に関係する先行研究の成果が日本土壌肥料学会の英文誌であるSoil Science and Plant Nutritionに掲載されました。

Takeshi Watanabe, Hiroaki Sumida, Nhut Minh Do, Katsuya Yano, Susumu Asakawa, Makoto Kimura (2013)

Bacterial consortia in iron-deposited colonies formed on paddy soil surface under microaerobic conditions. 

Soil Sci. Plant Nutr., 59, 337-346.

http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00380768.2013.791807#.UgJRboX80lI 

この論文では、
還元状態の水田土壌を微好気的に培養すると、酸化鉄が沈着した微生物のコロニーが形成されることを発見し、そのコロニーの微生物相の解析すると、微好気性の鉄酸化細菌に系統的に近い配列が主に得られた、
ということを報告しています。

この結果が軸となって、今回の研究テーマに繋がっています。
現在は、そこからさらに展開しているところですが、まだまだ報告できるレベルではありません。
試行錯誤しながらがんばっていきます。


本論文について興味のある方は、お気軽にお問い合わせを。


また、今回の助成とは関係ありませんが、
養賢堂より、「土壌微生物実験法 第3版」が出版されました。
第3版では、1997年に出版された「新編 土壌微生物実験法」には掲載されていない、近年確立した解析法が多く載っています。
私も微力ながら一部、第3版の執筆に携わりましたので、ご興味がある方はこちらもぜひご覧ください。




 

2013年7月17日水曜日

やさしい科学技術セミナー「土を見て、触って、学んでみよう」

ご無沙汰してます。
やさしい科学技術セミナー「土を見て、触って、学んでみよう」の内容が
公開されました。
本セミナーは、土壌肥料学会中部支部の土壌教育活動事業と共同で行います。

午前中に、豊田市自然観察の森を散策し、植生と地形の関係を学んだり、
森林の土壌と湿地の土壌を観察し、色、固さ、手触り、においなどの違いを比べます。

また、午後には同じ自然観察の森から採ってきた森林土壌を使って、
いくつか簡単な実験を行います。

ー土壌動物の収集、観察ー
自作のツルグレン装置を用いて土壌動物を収集します。
白熱電球を土壌の上に設置し、照射すると、熱による乾燥を嫌う土壌動物は
下へ下へと移動し、それを補足してルーペや実体顕微鏡などで観察します。
小型のミミズ、ダニ、トビムシ、ハサミムシ、カビの菌糸、
運が良ければカニムシなんてのも発見できます。
また、土壌に落ちている笹の葉や苔などをしばらく水に付けておくことで、
クマムシも観察できます。
今回は、簡易のUSB接続デジタルマイクロスコープも用いて、
パソコン上で観察画像を撮りたいと考えてます。

ー土壌緩衝能の測定ー
森林土壌の表層の黒い土壌と少し深いところの黄色い土壌または砂を使います。
そこに、0.01N塩酸を加えながらpHの変化を調べていきます。
土壌の違いでpHの変化の仕方がどうなると思いますか?
その違いを実際に測定し、何故違うのかを考えていきます。

ー土壌微生物の呼吸活性の測定ー
同じく、森林土壌の表層の黒い土壌と少し深いところの黄色い土壌または砂を使って、
土壌微生物が活動していること(土壌から出てくるCO2を)を、
フェノールフタレイン指示薬を用いて検出します。
土壌の違いで、呼吸活性はどう違うのか、
グルコースのような微生物のえさを加えるとどうなるのかを見ていきます。

多くの方は、普段、土壌についてあまり深く考えることはないと思います。
この機会に少しでも触れて、土壌の世界を覗いてもらえればと思ってます。

土壌を用いた実験の詳しいことは、ここからも無料でダウンロードできます。
夏休みの自由研究にも利用できるかもしれませんね。
ぜひご覧下さい。



2013年6月14日金曜日

鉄酸化菌

国際科学技術財団より研究助成の支援いただいている私の研究テーマは、
水田土壌で鉄を酸化する(Fe2+→Fe3+)微生物についてです。

鉄の酸化というと、赤さびを思い浮かべると思います。
空気中(溶液中)の酸素によって化学的に酸化される反応ですが、
ある限られた条件下では、微生物の働きによっても鉄が酸化されます。

水田で働く鉄酸化菌がどんなやつか、どこでいつ働いてるのか、
そんなことが明らかにできれば、と思っております。

現在、土壌から鉄酸化菌の培養、分離を目指していますが、
本命にどうやったらいい顔してもらえるんだろう、
と試行錯誤しながらがんばってます。

某マンガの主人公のように、肉眼で微生物が見えて、会話もできる、
そんな能力があれば。。。